Vol.3 意外に楽ちん?ツールドフランス

このタイトルはもはや暴言であるが、ツールドフランスは連日180km近い距離を、休息日を数日設けるとはいえ、3週間に渡って3500km程度走る。

よくこれだけの距離を、しかも毎日走れるなと感心してしまうが、逆をいうと、それだけ走れるくらい負担が小さい、という事を証明している事でもある。実は連日180kmというのは、アマチュア選手でも日頃の練習で走っている人もおり、一流の選手しか出来ない距離ではない。何を隠そう、筆者の私も連日200kmは決して困難ではない。

それどころか、たまにMTBやシクロクロスの選手がテレビ中継のゲスト解説に呼ばれると、ロードは休める競技と一見ケンカを売っているような言葉すら聞かれる事があるが、これは悪意ではなく、核心を突いた表現だ。正しくは休めるからこれだけ連日走れるのであって、いかに「足を使わないか」、「負担を小さくするか」がロードレースの肝である。特に、勝たせたい選手は周りの選手が徹底してガードし、最小限の負担になるようにして、「ここぞ」という場所で全力を出してもらうのである。だから、疲れてはいけない。疲れたら、狙われる。そして、負担を肩代わりしてもらえるアシスト選手が減ってしまったチームほど、その負担が中心選手に及びやすくなる危険な状態である。

一般的に勘違いされ易い点は、ほとんどの選手は大集団の中を走っている。この大集団は非常に空気抵抗が小さく、例えば、かじった程度のアマチュア選手でさえ、さほど疲れずに40km/hなどという速度を持続可能である(もちろん先頭を走る人は負担になるが)。つまり一人で180km走りに行ったサイクリングと、レースでの180kmは負担が全く違う。後者が明らかに楽だ。

更に選手たちは、3週間戦い続けるのであるから、当然無理をしたペースで走る事はない。大集団が道路幅いっぱいに広がって走っている光景が見られるが、横に広がるという事は、それだけ負担の大きい前を走っている人が多い事を表している。なぜそんな疲れるポジションを走るのかというと、疲れない程度の速度しか出していないからである。反対にペースが上がると、前を引く負担が劇的に増えるので、集団は縦一列になって、人の後ろに潜り込む。わざわざ2列3列と走る事はない。

特に、ほとんど有効な戦略として機能しない平坦中心のコースは、ほとんど移動しているだけという、事実上のストレッチ日でもあるし、山岳コースは、元々山で戦う気のない選手は足を使わずに登る、グルペットと呼ばれる休息集団を形成して、最低限の速度で走る。

(C)Wnd Bells Bicycle Club, Nanairoenpitsu.2010