スプリント・集団テクニカル 
集団性が戦略を生む

 ローテーション

車列を作る事によって、後続の車両は負担を小さくして走行する事が出来る。
しかし、先頭の人は空気抵抗にさらされ続けるから、この状態を続けると、先頭が疲弊してしまう。

そのため、先頭を走る人が途中で後ろに回り、2番目の選手が今度は先頭に立って走行をする、先頭交代を行なう。これを繰り返す事をローテーションと呼ぶ。

ローテーションは、エネルギー効率の上昇と高速化を果たす。
1人で走行する場合と異なり、途中で交代し後方で休む事が出来る為、先頭を走る時にいく分スピードを上げても後方で回復する事が出来る。

人数が多いとこの効果は増幅する。1人が1分先頭を走るとした場合、3人いれば、1分先頭を走り、その後は後ろで2分休めるが、5人いれば4分休む事が出来る。その分体力が回復するから、先頭でより強く走行する事が可能である。

一般に初心者にありがちな認識として、先行する人の後ろに入り風除けを利用すると、うまい事有利に走れたかのように錯覚し易いが、いかに人の後ろについても、交代しなければ、先頭の人(を含めた自分))の速度は上昇(あるいはそれ以上の上昇を)しない。逆に交代によって少ない労力で速度を上げられるチャンスを棒に振る事になる。もし隣にちゃんと交代をしているペアがいれば、自分との速度差とエネルギー効率の差を痛感するだろう。

特に、ローテーションで一番避けたい事態が、先頭の人が力尽きて集団から離脱してしまう事である。回せる人数が減る事によって休める時間が減る為、負担の上昇と速度の低下を引き起こす。もちろん1人になれば全ての負担を受け速度も最低となる。

その為ローテーションのカギは、いかに離脱者を出さず、有効に回し、全員の力で速度を上げていくかである。平等に同じ時間で交代したり、前の人が10分引いたから、自分も10分引かないといけない、という考えは正しくない。実力差や脚質があるため、力のある人が長く引き、力のない人は引く時間を短くしないと、途中で集団が崩壊する。

例えば、一時的にスプリントなどをして疲弊した人を、そうでない人と同じ時間先頭で走らせれば、そのうち離脱してしまう事は容易に想像できよう。このような場合、先頭を引く事を暫く免除するか、短くし、回復を図る必要がある。

また、平地はクロノマンやスプリンター系が引き、登坂はパンチャーやクライマー系が(ボトルなど持ってやる事も含めて)前を引くなどすると、バランスが保てる。

交代する時間は、ローテーションに参加している人数でおおよそ決まる。人数が少ないほど、速度が低い分引く時間が長くなり、人数が多いほど、速度が高い分引く時間は短くなる。
ただし前記のとおり、実力やその時の疲労具合に応じて引く時間は変動するから、常に一定という事は無い。
目安としては、一度自分が前を引き、再び自分の番が回ってきた時、ちょうど体力が回復しているくらいが適切である。回復する前に自分の番が回ってきた場合、それを繰り返すとやがて体力が底をついてしまう。

例えば、みんなが30秒程度引いている時に、ある人が5秒程度で交代した場合、サボッたと感じやすいが、5秒で交代するほど負担が大きいと解釈するのが正しい。交代する側も誤解を防ぐ為に、今はキツイという合図を出した方が良い。


 公道での安全なローテーション

当クラブが行なっている、公道において、安全に行なう事が出来るローテーション方法を紹介する。

1、車道左端を走行する

集団走行中は、必ず一列になり、軽車両の走行位置である、車道左端(車道外側線の内側、およそ50cm程度)を走行する。
後ろの選手は前方が見えないせいか、前を見ようと、車道内側に斜めにずれて走ろうとするケースを目撃するが、これは自動車にとって非常に邪魔になる迷惑行為である。そもそも前の走者を信用できないのであれば集団形成しない方が良い。

2、車道内側に寄る
必ず後方を確認し、自動車が来ない事を確認した上で、車道中央よりに移動し、車道左端に、自転車1台が通過できる分のスペースを作る。後ろに付く選手も、先頭の選手が車道内よりに移動したら、ローテションをする合図だと判断できるだろう。

3、先頭の選手が下がる
先頭の選手が、左に作ったスペースに移動し、速度を1km/h程度下げるなどして、後ろに交代する。なお自動車が直ぐに接近している時などは、早々に速度を落として後ろに下がってしまった方が安全である。
この際、2・3番目の選手は加速しない事。つい早く追い越したいために速度を上げてしまいがちだが、これを繰り返すと交代するたびにどんどん速度が上昇したり、疲労して失速したりなど、安定性とエネルギー効率が損なわれる。

4、退路を閉じる
先頭車が確実に下がった事を確認してから、次の先頭車から順に、車道左端に寄って、スペースを閉じる。この際、必ず後退する自転車が、自分の車体よりも後ろに退いた事を確認する十分な猶予を取る事。でないと、後退する人の前輪を、自分の後輪で引っ掛けてしまい、落車させてしまう。

残りの選手も順次スペースを閉じて行き、ローテーション完了である。なお、「アタックと追撃」の項で詳細しているが、下がっている人には、減速の慣性が働いている為、最後尾に達してから集団の速度に合わせても、直ぐに加速できず、場合によっては離れてしまう。このため、最後尾に達したら、速めに減速を小さくし、綺麗に最後尾に潜り込むようにする。


 障害物の回避方法

ローテーション中に、左の図のように、自動車が道路に駐車していたり、その他障害物があるケースは頻繁に発生する。

この際、青の選手のように、障害物を避けようと右に寄っては決してならない。黄色の選手に接触しかねないばかりか、黄色の選手を車道中央に押し込んでしまい、後続の自動車に撥ねられる危険性が高まる。

後退中の選手は、必ずそのまま減速(場合によっては停止)し、集団を必ず先に進ませる。

その後、後方を確認して安全を確保し、最後尾の選手を追いかける。前を走る選手は徐行すなりして、後続の選手が合流し易いようにする。


本来あってはならない事だが、ローテーション中に後続の自動車に接近された場合は、後退中の選手がブレーキを掛けるなりして速やかに最後尾まで移動し、早々にローテーションを終える。

あるいはローテーションを早々に中止して、列の途中に入り、速やかに空いたスペースを閉じて一列になる事。
このようなローテーションミスは、後退した選手が後方をよく判断せずに走った結果おきやすい。絶対に後方を確認し、ローテーション中に自動車に接近されるような事がないように細心の注意を払う事。

 その他、コツと注意点

◆ブレーキは最後尾から順に掛けること
集団時のブレーキは、必ず最後尾の選手から順に掛ける事。先頭の選手の減速のサインを合図に、後続選手から速やかに減速を試み、逆に先頭の選手はブレーキを掛ける際、2秒程度の猶予を持って、ゆっくりと減速すると良い。

◆正しい手信号を用いる事
日本を含む先進国に共通する手信号とは異なる、手を背中の後ろで握り、減速のサインを出すケースを散見するが、これでは1台後ろの選手にしか減速の意図が伝わらず、追突の原因になる。必ず正しい交通法規に基づいた手信号(斜め下に腕を突き出す)を出し、最後尾にまでサインが見えるようにする事。

◆信号ローテーション
特に市街地では、車が多く、ローテーションを完了するタイミングが中々無い状態が続き易い。このような場合は、信号を利用して、後続の選手が前に出て交代する、信号ローテーションを行なうと、安全に交代することが出来る。

◆交代のサイン
経験が付くと、先頭車の速度が少し落ちてくると、後続車は速度を落とさず、そのまま速度差で自然に抜いていく、自然なローテーションを形成できる(ぜひこのレベルまで練習していただきたい)。しかし、交代をしてもらうつもりが、その意図が伝わらず交代できないこともあるため、このような場合は、人差し指を地面に向け、グルグル回すサインを出すか、後ろを振り返り、前に出る催促をするとよい。

◆ただ乗りライダーの対処
集団で走行していると、いつの間にか人数が増えている事があるが、ローテーションの際、この人物の後ろにまで入って交代を繰り返せば、その内この人物を先頭に押し出す事が出来る。入る以上協力してもらうスポーツマンシップをみたいものである。
なお、ただ乗りライダーは同意を得てローテーションしているわけでは無い為、どれほど安全を注意し、こちらの安全も確保して走ってくれるか分からない為、うかつに一緒に走らない方が良い。

◆車列は5台程度に留める
自転車1台の大きさはたいした事ないが、5台続くと距離は10m程度に達する。これはトラックやバスより長い全長である。これ以上長い車列が続くと、追い越す車両が大変な迷惑を受ける為、5台程度をキリに集団を分断し、小集団を形成するのが良心的である。またローテーションをする際は、5名程度以下の方がやりやすく、これ以上長いと回しにくいので、その意味でも分断したほうが良い。

当クラブのライダーの体験として、前方に10名程度と思われる、ショップの顧客集団と思われる長い集団が走行しており、この集団を追い越すため、後続に自動車が全くいない状況まで待った上で、先頭に出るためにロングスプリントで追い越すハメになった事がある。


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