スプリント・集団テクニカル 
集団性が戦略を生む
 慣性と加速

同じ体重、力の選手が、同じ30km/hからスプリント(アタック)をした場合、同じ加速になると思い易いが、ここに慣性が影響する。

慣性は今の運動の流れを保持しようとする。同じ30km/hでも、減速しながら加速に切り替えると、慣性が強く働き、更に力が必要となる。逆に加速中に更に加速をせる場合は、慣性が弱い為、加速に必要な力が少なくなる。

ここでは、より実践的なアタックの例を記す。




左図1のように、前の選手を風除けにして、後ろの選手がアタックを仕掛けるとする。
この図は、速度が30km/hのまま維持された状態であり、加速も減速もしていない。
そのためアタックは、30km/hの状態からの慣性のみ働く。



一方で、同じ30km/hでも、25km/hなどから加速して30km/hに到達した場合、慣性は加速の方向(プラスのベクトル)に力が働いているから、ここでアタックを掛けると、より速く加速する。



これが反対に、35km/hから30km/hなど減速の方向へ向かっている状態からアタックを仕掛けた場合、慣性は減速(マイナスのベクトル)に力が働いているから、一度この慣性を引き戻し、加速(プラス)に転じさせなくてはいけない為、余計に力が必要となる。



前を走る選手が、減速しながら30km/hになり、後ろを走る選手が加速しながら30km/hに達したとする。
この場合、同じ30km/hであり、一見すると条件は同じであるが、慣性の働く方向は全く逆である。

後ろを走る選手は容易に加速出来るのに対し、前の選手は減速方向であるから、直ぐには加速できない。
このようなケースでは、同じ力であっても、アタック力や追撃力に決定的な差が生まれる。

つまり、走行中に減速方向の選手は加速が鈍るから、このような状況の選手は、アタック力がいく分低下している。その人のアタック力やスプリント力に加え、この慣性がどのぐらい働いているかを判断する事で、アタックが決まり易い状況を見抜く事が出来る。


 慣性を振り切る

同じ速度でも、慣性が加速方向に向いているか、そうでないかで、加速の速さが変わるから、アタックやスプリントを仕掛ける時は、速度を上げる前に、まず慣性を加速方向に向ける必要がある。

たとえば、これからスプリントを掛けようとする際、集中する為に一呼吸とろうとペダルを回すのを止めると、速度メーターは同じ速度を刻み続けても、慣性ベクトルは減速方向に向いてしまうから、「同じ速度であっても」加速が鈍くなる。

これの逆を言うと、「同じ速度であっても」慣性ベクトルを加速方向に向けてしまえは、その後のスプリントは大変加速が良くなる。


「慣性とアタック1」の図は、赤の選手の後ろに青の選手が入り、途中から抜け出して追い抜くスプリントの典型を表した図である。

前に選手がいるのだから、この選手を抜かす為には、前の選手を避けて加速しなければならない。そのため、まず前の選手が邪魔にならない位置に避けてからペダルを回す図である。避けた途端に空気抵抗にさらされるから、その負荷が掛かった状態から加速を始めなければならず、加速が悪い。



これにたいし「慣性とアタック2」の図は、前の選手の後ろについた状態から加速をし、慣性を加速方向に向けた、いわゆる助走をつけた上で飛び出している図である。仮に飛び出した時の速度が図1と同じであっても、こちらの方が加速が著しく良い。
なお図では分かり易いようにかなり後ろから加速をしているが、実際はこれほど隙間はない。感覚的には、ペダルを回してから、前の選手と接触する前に避ける形になる。



図3は立場を入れ替え、前の選手がアタックを掛ける図である。単純に、ある地点から全力でスプリントを掛けている図である。



これに対し図4は、後ろの選手気付かれない範囲でこっそり加速(あるいは慣性を加速方向に向ける)をし、その後にスプリントを掛けている図である。こちらの方が慣性が加速方向に向いている為、伸びがよくなる。

図5は、これの応用である。前を走る選手が、僅かに速度を落とし、後ろを走る赤の選手も含めて慣性ベクトルを減速方向へ向ける。その直後に慣性を加速方向に引き戻し、スプリントを仕掛ける図である。後続選手の慣性を減速方向に仕向けながら、先頭を走る自分が素早く慣性を加速に方向に戻す事で、後続との慣性の差をより大きくすることを狙っている。
ただし、前の選手が速度を落とす行為は、後ろの選手にとってはアタックのチャンスとなる為、一長一短である。



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