操縦・技術
テクニックが実力差を生む

同じ「エンジン」が搭載されている全く同じオートバイを運転したとして、全員が同じタイムでゴールする事はありえない。自転車もオートバイや自動車と同様、ライダーの「運転能力」によって、その走行力に大きな影響を受ける。

この操縦力向上は、「体重も増加しない」し、「余計なエネルギーを大量に消費する事もない」。
自分のエンジンを強化したら、更にそのエンジンを「効果的」に発揮させる技術を共に身につける事で、一層の成績向上が期待される。

    平地ライディング・テクニカル

平地ライディング・テクニカルでは、主に左右への移動を伴なう走り方の技術を中心に取り扱う。上り坂などの上下の移動は、後述の登坂ライディングテクニカルを参照されたい。
まっすぐ直線の道であっても、まっすぐ走った人と、クネクネと蛇行してしまった人では、実際に走った距離に差が生じる。余計な距離を走れば、それだけタイムは遅くなる。

-ライン-

上の蛇行している道の図は、一見すると「ルートA」のように蛇行して走行する場所のように見えるが、ルートBのように実際は直線で走行する事が可能である。ルートAは走行する距離が増える上、蛇行のために速度も低下する為、ルートBの方がタイムが良い。

このように、最もタイムを短縮できる走行位置を、最速ラインといい、このラインを選択する事を、ライン取りという。すなわち、ライン取りが優れる選手は、それだけコースを「無駄なく」走行出来る。

-コーナリング-
カーブを走行する際、さほど速度が出ていないのであれば、そのまま内側を走り続けるのが最短ラインとなる。しかし、速度が高かったり、カーブが急であるほど、減速をしなければ曲がりきる事ができない。

カーブを最短タイムで抜けるには、左の「平地図2」のように、楕円形のラインを取るのが最短タイムとなる。

スピードが出ているうちはカーブを曲がりきれないが、スピードが落ちてくれば、それに合わせて曲がれる角度も増えていく。
つまり、速度が落ちるにつれて曲がる量を大きくし、コース出口を内側で抜ける。スピードと距離が最も最短で釣り合った場所を走行する形となる。この走法は、MotoGPや、同じ自転車競技のMTBクロスカントリー、BMXなどで顕著であり、観戦は大変学習になる。

実装の走行のイメージは、「平地図3」のように、カーブ外側から進入し、徐々に内側に寄って行き、カーブ出口近くで内側に触れるイメージとなる。
前述したが、カーブによっては、最初から内側を走り続ける事が可能な場合もある。このようなカーブの場合、わざわざ外側を走る必要は無い。

⇒関連トレーニング スラローム

●ブレーキング技術
減速しなければ曲がりきる事が出来ないカーブの場合、どこから減速を始めるのかを見極める必要がある。減速する必要が無い遥か前からブレーキを掛けても意味が無いし、逆にブレーキを掛けるのが遅ければ、曲がれずにコースアウトしてしまう。このブレーキを掛けるタイミングを見定める技術が、ブレーキングである。

⇒関連トレーニング スラローム

●アクセラレーション
一方で、カーブを終え、減速する必要が無くなったら、速やかに加速させなければ、タイムロスが拡大する。この、加速を始めるタイミングを見極める技術が、アクセラレーションである。加速させるのが遅ければ、それだけ低速の時間が増えてしまうし、逆に加速させるのが早すぎると、カーブの外側に膨らんでしまい、タイムロスが発生する。特に自転車の場合、カーブ途中で急激に加速を始めると、後輪が滑って落車をする事が多い。

もうひとつ考慮すべきなのは「加速力」である。上記は加速の「タイミング」の話であるが、加速をダラダラと少しずつ行なうのと、瞬発的に、切れよく急加速させるのでは、当然後者の方がタイムロスが小さくなる。、カーブ後は典型的なスプリントポイントとなる。

    登坂ライディング・テクニカル

登坂は多くの場合、同じ勾配が続くことは少なく、部分的に急勾配になったり、逆に緩くなったり、下りに転じたりする。このような起伏のコース変化は速度や負担の大幅な変化を生み出す。。

-適切なケイデンス-
坂道は速度が低下し易い為、ペダルの1分間の回転数であるケイデンスも低くなりがちである。かつては70rpm前後が適切とされていたが、後述するランス・アームストロングの登場によって、登り坂であっても90rpm前後で走る有効性が科学的に証明されている。

現在では、90rpm前後を目安に、低くても70rpm以上を確保するのが適切な登坂時のケイデンスとされる。

仮に70rpmをも下回る場合、使用しているギアが重過ぎ、効率が低下している事を示す。
ケイデンスを上げる方法は2つあり、一つは「速く走る」事であるが、現実的には、もう一つの、「ギア比」を下げる事が中心となる。

しかし実際には、重すぎるギアで「ガマン大会」のように登っているケースが見られる。走行の有効性を高める為に、フロントのリングやリアスプロケットのサイズを変更し、低くても70rpm、標準で90rpmが出せる、そのライダーにとって適したギア比を設定する必要がある。

走行スピードと、フロントのインナーリングの歯数ら、それぞれのケイデンスを出すのに必要なリアスプロケットの歯数を表にまとめた。

速度
ケイデンス
39T
34T
15km/h
90rpm
---
26T
70rpm
22T
21T
14km/h
90rpm
---
28T
70rpm
25T
22T
13km/h
90rpm
---
---
70rpm
27T
24T
12km/h
90rpm
---
---
70rpm
---
26T
11km/h
90rpm
---
---
70rpm
---
28T
10km/h
90rpm
---
---
70rpm
---
---


このように、時速10km/hを下回る場合、ケイデンス70rpm以上を維持するのは、34T-28Tでも不可能である。つまり、10km/h以下になると、効率の悪い走行を余儀なくされる。
いわゆるノーマルクランクの場合、ケイデンス90rpmを維持する事が出来るのは、39T-28Tで16km/hが限界であり、70rpmを維持できるのも13km/hまでである。

コンパクトクランクの場合、14km/hまで90rpmを維持する事が出来、11km/hまでなら70rpmを維持できる。

これらの点から、自身が5%〜7%程度の坂を登る際に、およそ何km/hで走る事が多いか照らし合わせ、それに適したギアを設定すると良い。


-ダンシングの有効性-
ダンシングは、体重を乗せて出力を増やせる為、坂道では多用される。
が、ダンシングはシッティングに比べ効率が悪く、かえってタイムが悪くなる事も多い。
ダンシングの特徴は、以下の2つである。
1、パワーが上がる
2、それ以上にエネルギーが消耗される。

つまりは、スピードは出るが、エネルギーは割高となる。

これは、著書「ロードバイクの科学」においても実験として取り上げられ、結果、シッティングで登った方が、ダンシングで登るより明確にタイムが向上しているデータが掲載されている。
また、このようなダンシングの特性を実践していた事で知られるのが、ランス・アームストロングである。ランスは登坂時の9割をシッティングで登り、同プロ選手たちに比べてダンシングが控えめであった。むしろ、そのシッティングの有効性を高める為、当時では非常識だった、ケイデンスを高めで登るために、「コンパクトクランク」と称される小さいギアを使用し、新しいスタンダードを作った程である。

では、ダンシングは役に立たないのかというと、ランスも1割はダンシングを加えているように、「使いどころ」がある。効率が悪いダンシングであっても、それを用いた方が結果がよくなる箇所であり、高いパワーを出さなければタイムロスを招いてしまう箇所である。

具体例としては、
・速度が低下しだす場所で、速度を落ちないようにする。
・速度が上昇しだす場所で、速やかに加速させる。
・極端に速度が低下する場所で出力を上げて対処する。
・(例外的に)同じ姿勢で疲れた際のストレッチ目的。

が挙げられる。

このようにダンシングは、有効性の高い箇所では、その効果が引き出される。その使いどころが、加速(ダンシング)ポイントである。

-典型的な加速ポイント-

上の図は、登り坂の起伏などを一切考慮せず、ただ同じパワーで走り続けた場合の速度変化を見た図である。
平地では40km/hであるが(1)、坂道に入ると次第に速度が低下し(2)、坂道が終わると徐々に加速をはじめ(3)、再び40km/hに戻る(4)。

この基本的な形状を元に、坂を登るスピードを向上させる、代表的な2つのポイントを上げる。

登坂図1、坂の手前
坂の手前から予め加速しておき、そのまま坂に入ると、加速の勢いで高速のまま一定の距離を走る事が出来る。坂に入ってからでは加速が難しいので、平地の間に加速を開始する。が、手前過ぎても坂に届く前に疲れてしまう。的確なポイントの見定めが必要である。これによって、速度の低下が抑えられ、坂道でのタイムが短縮する。

⇒関連項目 登坂スプリント

●登坂図2、登頂前
坂では速度が落ちる為、坂が終わって平地に戻った直後は低速のままである。そのため、登頂少し手前から加速をし、平地で速やかに高速閾まで回復させる。これも、平地になってから加速していたら遅れるし、手前過ぎる場所から加速しては、上りきった所で疲労し、平地で失速してしまう。
特に登頂時の誤った例として、坂のてっぺんを目標として加速し、その後の平地を失速したまま走り続けるケースである。これは大幅なタイムロスに繋がる。

このように坂道では、「坂に差し掛かる前」と、「坂が終わる前」の2箇所に加速ポイントが存在する。
一般に、図1はよく実践されているが、図2はあまり実践しているライダーを見ない。その理由の一つとして、上りきった時には疲れていて、登頂時の加速を怠るケースが上げられる。がしかし、疲れて25km/h位しか出せなくても、20km/hからダラダラ休んで25km/hに上げるより、ものの1秒のダンシングで30km/hにまで上げてから休んで25km/hに下がる方が、より前に進めるのである。上りきったら終わりでなく、上りきった後に加速してから休む事でロスが抑えられる。

-距離別、実践登坂テクニカル-
坂の長さは様々であるし、スプリントは短時間で疲労してしまう。そのため、一定の坂の長さで分類し、その長さに適したスプリントを行なう必要がある。

そのため、坂の長さに応じて、ある程度ペース配分を変える必要がある。
ここでは、3つの長さを例にとる。
ここでは、特に重要である、10秒坂、30秒坂、3分以上の長い坂に分類する。

●10秒程度で上りきれる坂
10秒程度で走破出来る坂は、瞬発系の運動である、ATP-CPによる全力のダンシング(スプリントと言った方が正確か)を行い、一気に駆け抜ける事が可能である。
坂前の加速、坂後の加速も意識しながら、手早く坂を攻略する。普通に登れば25km/h程度の減速が当たり前の箇所であっても、ほぼ40km/hのまま登り切る事も難しく無い。

⇒関連トレーニング 登坂スプリント


●30秒程度で上りきれる坂
30秒の長さの坂は、ATP-CP閾では走破不可能であるため、坂前の加速に4秒、坂後の加速に4秒の計8秒などと配分を行なう。
そして、30秒とは解糖閾値を最大パワーで走破出来る距離である為、強めの持久的な連続ダンシングで登る。坂を見ながら、上りきるのに必要なペース配分を練習によって見につける。

⇒関連トレーニング 登坂アクセル


3分以上掛かる長い坂
上りきるのに時間が掛かる坂は、ダンシングによる長時間の加速は逆効果である為、坂前、坂後にスプリントをいれ、それ以外ではシッティングでパワーを安定させて登るのが効果的である。シッティングといっても、3分で上りきれる強いペースで走行を行なう。
なお、1分〜3分の坂や、3分以上掛かる坂の場合は、この負荷を調節し、登り切るのに必要なペースに加減する。速過ぎると途中で失速するし、遅過ぎると楽な分タイムは遅れる。
場合によっては、最後に次項にあげる登頂アタックを組み合わせる。


●登頂アタック
登頂アタックとは、登頂に達する少し前から、強めのペースで登る走法である。残り30秒程度で登頂という距離に迫ったら、そこからは「30秒程度で上りきれる坂」の要領で、それまで以上にパワーを上げて登る方式である。

また、「坂の先にゴールがある(それ以上走る必要が無い)」場合や、坂後に下り坂があり、休む時間がある場合などでは、1分程度の登頂アタックも有効である。ただしこの登頂アタックは非常に苦しく、最大心拍に達することも珍しくない為、年齢、体調などをよく考えて実施して欲しい。登頂後ダウンヒルに入っても、急激な心拍低下を抑えるため、足は動かした方が良い。

⇒関連項目 登頂アタック


●長い坂、峠道
より距離が長く、坂の勾配が一定でない峠道を例に取る。下の図は、スタート〜ゴールまで、およそ1時間掛かる道と仮定する。6区間あり、各区間は平均して10分程度である。


  1. 平地
    体力が残っている場合は構わないが、ペース配分が必要な場合では、平地は基本的に体力を維持する箇所である。ここでスピードを上げて空気抵抗にエネルギーを奪われ、登坂時には体力が枯渇しては意味が無い。
    坂に入る前は、失速しない程度にアタックを掛ける。

  2. 緩い上り坂
    坂道である為、平地より力を入れ、シッティングで安定して高速度を維持するのが基本となる。3の地点で急坂に入るため、その坂前で加速するのは、1のポイントと同じである。

  3. 急坂
    最も力を要れ、速やかに通過する事を目指す。最大の速度低下ポイントであり、逆に言うとタイムを一番縮め易いポイントである。また総じて、ダンシングの効率が上がり易いポイントでもある。
    なおこの図では10分としているが、短い急坂(峠のカーブなど)では、10秒アタック、30秒アタックなどを組み合わせて、さっさと通過してしまった方が良い。この図では次に緩い坂に戻るので、急坂の最後に加速して緩い坂に入る。

  4. 緩い上り坂
    実質、3の急坂のリカバリーとなるが、坂には違いない為、ペースは維持する。特に次の5は平地に戻る為、最後のがんばりどころとなる。平地前に差し迫ったら、速やかに加速し、平地に高速のまま入る。
    なお、坂によっては次の5の平地が無く、そのまま6の下り坂に転じる場合もよくある。このような場合は下りでリカバリーが可能である為、この4が登頂アタックを掛けるポイントとなる。

  5. 平地
    4までの上り坂の疲労を回復させるリカバリーポイントとなるが、低速度でリカバリーさせず、必ずある程度の速度に上げてから休む。なおこの図では休みどころとしたが、次の下り坂まで30秒や1分など、すぐに到達出来る場合は、速度を落とさずに走りぬけ、下り坂までリカバリーを待った方が良い。
    下り坂に入る手前で加速し、高速状態のまま一気に下り坂に進む事。余計な加速時間は即ロスとなる。

  6. 下り坂
    下り坂は最大のリカバリーポイントである。なにせ漕がなくても勝手に加速する。逆に下り坂が見込める場合は、その前の上り坂でのペースを少し上げる事が可能である。下り中は、空気抵抗の少ないフォームに徹し、リカバリーと共に加速を心掛ける。なお、全く漕がないでいると、体が冷えたり、心拍が一気に低下して体調を崩す事もあるため、ある程度の心拍は維持する程度にペダルを回すと良い。特に、第二の心臓とも言われるふくらはぎを動かし、足の血流を促して代謝を高めると良い。

その他登坂に関する内容は、「足質を知る⇒登坂力」を参照されたい。

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(C)Wind Bells Bicycle Club, Nanairoenpitsu.2010