平地で出す事ができる最高速度は、その人の出す事ができる力(出力)と、その力で押し進む事が出来る空気抵抗が釣り合ったところである。
自転車は走行すると、空気の中を突っ切る事になり、そこに抵抗が生じる。この抵抗は低速のうちでは微々たるものであるが、速度が倍になると、抵抗は自乗に比例して増大していく。すなわち20km/hの抵抗を1とすると、40km/hでは4倍に、60km/hでは9倍に達するのである。
簡単に言うと、速度が上がるほどエネルギー効率が悪くなり、僅かな速度を上げるのに膨大な力が必要となる。
つまり、平地を走るスピードを上げるという事は、より空気を押し退けて進むだけの力を獲得する事と等しい。
エネルギー効率の悪化
空気抵抗は速度の自乗に比例して増大していく。その為高速になればなるほど、1km/h速度を上げるのに必要な力が大量に増加していく。
左のグラフは、その関係を表している。このグラフの例の場合、時速10〜30km/h程度までは出力100w程度で済んでいるが、40km/hになると200wに達し、50km/hになると一気に400wにまで達している。
つまり、20km/hで50w、30km/hで100wなのだから、40km/hは150wだと感じ易いが、正しくない。
重量挙げでは、力が50kg強くなれば、当然持ち上げられる重さも50kg増えるが、自転車の場合、前述のように「空気抵抗」が自乗に比例して増加する為、100w力が強くなっても、100w分速くなるという事は無く、高速になるほど、力の割りに速度が上がりにくい。
上のグラフの場合、30km/hの力(100w)に100wを加えると、速度は約10km/h増加するが、40km/hの力(200w)に100wを加えると、速度は約6km/hしか上昇しない。
空気抵抗は自乗に比例するから、30km/hを40km/hに強化したい場合は後100w必要だが、40km/hを50km/hに強化したい場合は、倍の200wが必要となる。
筋力と持続力
ここで上げるパワーとは、「スピードを上げる力×持続時間」である。いかにスピードを55km/hまで上げる力を持っていても、持続せず3分で失速してしまうのでは、平地を高速で駆け抜ける事が出来ない。
逆に持久力が優れていても、力不足でスピードを50km/hまでしか上げる力しかないのであれば、そこで頭打ちとなる。
すなわち、空気抵抗を打ち破る力と、それを持続させる力の両方が必要である。
最低限、速度が上がるにつれ、必要となる出力が大幅に増加していくから、高速で走る事を実現するには、その空気抵抗を打ち破れるだけの力を身に付ける必要がある。前記グラフで言えば、50km/hで走り続けたいのであれば、400wの出力を出すだけのパワーが最低限必要であり、その上で、その力を長時間に渡って出し続ける持久力が必要である。
体重との関係
高速閾では余計にエネルギーが必要となる為、上がる速度以上に沢山の筋力が必要となり、結果体重が大幅に増加し易い。全体的に平地を得意とする選手は筋肉質であり、筋力を付け易い人は、平地の高速走行に向いているといえる。
しかし、筋力(つまり体重)が大幅に増加すると、その分登り坂の速度が低下する傾向が見られる。
徹底的に平地力を求めるのであれば、特化選手として、登坂を捨てる覚悟も必要になってくる。
逆に、登坂力も強化したい場合は、過剰な体重増加に速度向上をあまり求め過ぎる事は出来ない。
速度が速いほど過剰に筋力が必要となる為、逆に言うと、その高速をある程度捨てれば、大幅に筋力を減らす事が出来、登坂力が回復する。
高速閾での体重増加との兼ね合いから、効率の良い所で速度にフタをして、余剰な体重増加を抑えるのも、重要な脚質の決定判断である。
心臓でパワーを得る
しかし中には、高速閾に必要な高出力を、筋力でなく、心臓で生み出すケースがある。例えば前記のグラフでは、50km/hに必要な出力は400wであるが、筋力は600〜1000w以上は問題なく発揮できる力を持っている。問題は、それが持続できるかである。
つまり、持久力に優れた選手は、その高い持久力によって、より高い負荷を出し続けても、それを持久し切る事が出来る。
このような選手は、筋肉自体は大きくない(体格もがっちりではない)のに、高速で走り続ける事が出来るのが特徴である。
今日では、筋力を存分に発揮して超高速で走る選手が登場し強さを示しているが、かつてはこのような持久力タイプでも、体格のがっちりした選手と肩を並べ、それどころか破ってしまう事も珍しくなかった。
このような持久力に優れた選手は、筋力に頼らない分体重が低い為、登り坂も(その持久力の高さも加わって)速いという特徴がある。これがいわゆる、オールラウンダーである。
持久力に優れる選手、つまり心臓や肺、血液に優れる選手は、「高速を低体重で実現できる」為、オールラウンダーに向いている。あるいは、筋肉が付きにくい選手は、それを持久力で補う事で高速を実現できる。
しかし、いかに持久力が優れるからといって、筋力をことごとく痩せ細させるのが良い訳ではない。実際、いかに持久力に優れようとも、筋力が不足するクライマーなどは、平地で高速を維持する事ができない。クライマーはタイムトライアルや高速レースを苦手とし易い。つまり持久力だけに頼ればよいというものでもない(ただし、登坂力の強化を目指す場合は、平地の速度を捨て、体重低下を徹底するケースもある。これは「登坂力」の項にて詳細する)。
この辺りは、先ほどの体重との関係を考慮し、筋肉をどこまでつけるかを探っていく必要がある。なお、ロードレーサーの場合、その体重はBIM値にしっかり収まっている事が多く、この辺がオールラウンダーのちょうど良い体重バランスと見ることが出来る。
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