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脚質を知る
特徴ある足の能力
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自転車競技は様々にあるが、ここでは長距離種目であるロードレースを中心に取り上げる。
ロードレースには、峠道を代表とする上り坂や、集団でゴール地点に達する機会が多い為に急激な加速と最高速度による着順争いがしばしば行なわれる。そのため、ただ持久力や平均的な走る速度をトレーニングするだけの、単純な持久力スポーツではない。
自転車の走行力は大きく、
◆平らな道を走行する「平地力」
◆上り坂を走行する「登坂力」
◆瞬間的に急加速したり、最高速度を出す「瞬発力」
の3つの能力が影響する。この自転車の移動力に影響する3つの能力のバランスを、「脚質」と称する。
平地力が優れた人は、平地を非常に速いスピードで連続走行し、登坂力が優れた人は、上り坂をあっという間に駆け抜けていく。そして瞬発力に優れた人は急激にスピードを上昇させ、驚異的な瞬間最高速度を誇る。
このように特徴がある能力をどのように伸ばし、どのような方向に向け、どのような特徴を持つ走りとしていくかの性格付けが、本項目における、脚質の強化であり、それをまず知る事である。
脚質のバランスをどこにおくかなどによって、様々な特徴の走りが生まれ、その脚質は多彩である。ここではその脚質の代表的なタイプを紹介する。
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クロノマン(TTスペシャリスト)
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高速移動のスペシャリスト
◆特徴
平らな道を、高速で走り続ける事を重視する。空気抵抗を押しのける為の十分な筋力と、その力を維持し続ける高い持久力が必要となる。
特に高速を筋力で獲得する所が大きい為、体重が重く、登り坂ではタイムアウトになる危険性を持つほど遅れをとる。
◆走法
平地を長時間に渡って高速で走行し、仲間の強力な風除けとなって牽引する他、ゴールのかなり手前から高速走行を始め、その独走力で1人抜け出してゴールまで逃げ切るといった走行を得意とする。パワーはあるが、瞬発型では無い為、ゴール直前を瞬発力に優れた選手と一緒に迎えてしまうと分が悪くなる。その為、このような選手を、いかにゴールに達するまでに振り切り、そのまま1人で逃げ切るかのタイミング伺いが戦略上重要となる。
逆に仲間のスプリンターの前を引いて強力なアシストをしたり、レース速度を上げて、後続集団の追走を振り切ったり、逃げ集団を捉えたりといった、速度面のコントロールに秀でたアシスト力に優れる。
タイムトライアルなど、比較的緩やかな道を単独で走行し速いタイムを競うレースでもっとも実力を発揮する。一方で登り坂が多いコースでは勝ち目が薄い為、仲間のアシストを行なったり、ステージレースの場合はグルペットを形成して体力回復を行い、山岳後の平地ステージに備える事が戦略上多い。
◆トレーニング方法
高い出力を出す為のパワーが絶対不可欠であり、ウェイトトレーニングなどを取り入れた筋力強化が重要となる。パワーが逃げないよう上半身の筋力も強く必要とされる。
スプリンターのような、短時間に高い出力を出すのではなく、長時間に渡る高出力を「単独で」出し続ける、スピード&持久系練習が中心となり、元々太くなりにくい持久力の高い「遅筋」を強靭にするトレーニングを中心に行なう。
◆代表的なトレーニング
⇒ステディステートインターバル
⇒オーバー&アンダーインターバル
⇒フライングパワーダッシュ
⇒トリプルパワーダッシュ
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スプリンター
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急激な加速と最高速度
◆特徴
瞬間的な爆発的速度を出す事を得意とし、猛スピードで駆け抜ける事を重視する。
トラック競技などの距離の短い種目では、ほとんどの選手がスプリンターであるが、ロードレースの場合、スプリンターであっても200kmなどの走行を行なう為、持久力も求められる。
筋力が必要とされ上半身にも筋肉が多く、体重が重いため、総じて登り坂は苦手である。
◆走法
ロードレースでは、ゴール終盤から加速をはじめ、急激なスプリントをして先着でゴールする事を狙う。往々にしてゴール直前は、スプリンター達の激しいスピードによる着順争いとなる。単純に筋力だけでなく、ゴールを通過する瞬間に1番に達する距離やその加速を始めるタイミング、他者の能力を計算に入れた競り合いなど、ライディング技術が占める部分が大きく、体力だけで勝てる分野ではない。
◆トレーニング方法
俗に「キレ」と言われる、鋭い筋肉の収縮=瞬間的な最大力を高めるトレーニングと、出力の絶対的な大きさを高める為に、筋肉量自体を強化するウェイトトレーニングなどを行なっていくが、後述するように、生まれ持った速筋の量という先天的な才能に左右され易い特異分野である。その速筋を強靭にし、鋭くするトレーニングを中心に行なう。また、沢山の経験を積んで、スプリントの見極めなどの技術を取得していく。
◆代表的なトレーニング
⇒フライングパワーダッシュ
⇒トリプルパワーダッシュ
⇒スプリント
⇒オーバースピードスプリント
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ルーラー
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強力な万能アシスト選手
◆特徴
平地を高速で長時間走り続ける独走力を持ちながらも、ある程度バランスを考慮しながら、登坂力も保有する万能型である。対応力が高いため、あらゆる場面をそつなくこなす完走力が高い。ただ万能ではあるが、際立った一芸が無く、ここぞという場面に弱い欠点もある。
個人ソロレースや草レース、アマチュアの一般的なレースでは、アシストという行為があまり無い為、実力は高いのに目立ちにくく、不遇になりやすい。
スプリンターやオールラウンダーのように、特別目立った活躍を見せにくいものの、その役割や功績は非常に高いため、この目立ちにくいルーラーの活躍を正当評価するのが、目の肥えたロードレースファンの自負であったりする。
◆走法
勝負どころで勝つのが難しい為、1人で(集団をコントロールしたり、プロとしての広告宣伝の仕事を果たす為)逃げたり、アタックを潰したり、エースを高速で引っ張ったりと、あらゆる場面で、あらゆるアシストをこなす、チームの強力な支えとなる。チームプレーの要であり、優秀なルーラーを抱えるチームは対応力が高く、総じて強い。
またチームのエースが離脱した際などは、セカンドエースとして活躍する事もあり、最初からそれを見越して自由に動くことが許されるケースも見られる。
◆トレーニング方法
体重をあまり増加させず、高速で走る能力を獲得するトレーニングを中心に、スプリントや登坂といった全体的な能力を強化していく。その後の強化次第で、登坂を重視すればクライマーに、スプリントを重視すればスプリンターに、バランスを更に追求すればオールラウンダーへと、更にタイプ変化する可能性がある。
◆代表的なトレーニング
⇒ステディステートインターバル
⇒スプリント
⇒フライングパワーダッシュ
⇒登頂アタック
余談だが、アマチュアの場合、パワーは有しているのに、体脂肪が高く重い為に、結果としてルーラー化している選手も見受けられる。このような場合、トレーニングに「減量」という項目も入ってくるであろう。
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パンチャー
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急激な加速で鋭い一撃を誇る
◆特徴
スプリンターと同じ瞬発力に恵まれるが、絶対的なパワー量は求めず、重量を抑える事によって、軽量を活かした急加速を得意とする。その急激な加速力=アタック力が、パンチの名の由来である。軽量なため登坂力もあり、登坂中の急加速も鋭い。
パワーの絶対量においてはスプリンターには最高速度に劣り易く、同様の理由から、平地を高速で走り続けるのも難しい。
◆走法
ロードレースにおいては、平地や登坂が程ほどに用意されているコースで実力を発揮し易い。レースでは、鋭いアタックで集団をちぎったり、アタックを追撃して潰したり、山岳においてエースを牽引したりなどの活躍をする。最高速度ではスプリンターに劣る為、最後の最後で急加速をして追い込む戦法が主流となる。故にそのための位置取り、タイミングの見極めが一層シビアであり、より技術的能力が要求される、技巧派である。
山をある程度こなせる事から、ある程度の登坂が見込めるコースでは、スプリンターが着いて来られないため、クライマーなどスプリントが苦手な選手と展開を進めやすく、ゴールスプリントの主役となる。
◆トレーニング方法
筋力量の増加による絶対的なパワーの増加を求めるのではなく、筋肉の収縮力を中心とした瞬間的な爆発的パワーの強化や、低速からの素早い加速技術の取得を中心とする。総じて「アタック」能力を強化する。
元々速筋に優れる為、パワーを強化すればスプリンターに変貌する。または、パワーがまだ身についていない間の一時的なパンチャーである事もあり、成長中の若手選手に目立つ。
◆代表的なトレーニング
⇒スピードアクセル
⇒スプリント
⇒登頂アタック
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クライマー
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頂きへ圧倒的速さで上り詰める
◆特徴
登坂速度を徹底的に速くする事を追及し、体重を低く抑え、登り坂においての圧倒的なスピードを武器とする。一方で、軽量化の為に筋力をも最小限に抑えるため、パワーが乏しく、平地を高速で走る力が弱い。
◆走法
登り坂が多いコースにおいて強さを発揮し、山岳ステージでの勝利を狙ったり、仲間の前に立って風除けを行なう。ゴールスプリントやタイムトライアルと言った力が物を言う分野では点で勝負にならない事が多いため、主に平坦コースでは基本的に勝負をしない。前半に山があるコースなどでは、ここでスプリンター達を振り切って出来る限りのタイム差を付け逃げ切りを目指すなどの戦略を持つ。
平坦では力弱いが、スプリンターと劇的なタイム差が着くほどではなく、逆に山ではスプリンターに大差を付けて先着し易い為、ステージレースなどでは、総じてスプリンターより総合順位は高く、上位に食い込む事もある。
◆トレーニング方法
必要の無い筋力を徹底的に落とし、体重を徹底的に下げる。体脂肪の低下は当然の事として、スプリントを捨て、肥大化しやすい速筋の発達を抑え、加えて上半身の筋力強化を一切回避する。その上で遅筋を強化する持久力トレーニングや心肺強化を通じてスピードを強化し、登坂スピードの向上を図る。また、登坂中に特徴的なダンシングのトレーニングや、蛇行するコースが多い中でのライディング能力など、登坂時の技術取得を極める。
◆代表的なトレーニング
⇒マッスルテンションインターバル
⇒登坂アクセル
⇒ステディステートインターバル
⇒心肺パワーインターバル
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オールラウンダー
あらゆる地形を高速で駆け抜ける
◆特徴
非常に優れた持久力で、平地での高速走行を実現し、その高速力を登坂でも発揮する、総合力タイプ。山だろうが平地だろうが常に高速で走り続ける。表では平地力と登坂力を4としているが、トップレベルの選手になると、タイムトライアルでも、山岳タイムトライアルでも勝利をもぎ取ってしまうような、完全無欠な実力を示す。
◆走法
ロードレースにおいては、登坂と平地を高速で走る高い能力から、総合的に最も速いタイムを出しやすく、山や平坦が多彩なコースや、これらを連日行なうステージレースでは、個人総合優勝を競うエースとして活躍する。
ほとんどタイム差が着かない平坦コースでは、体力を温存、回復させ、タイム差が大量に付く登坂地帯とタイムトライアルを中心に高速移動を行い、タイム差を広げて勝利を掴む戦法を取る。
◆トレーニング方法
高出力を長時間に渡って出し続けるスピード系のトレーニングが中心となり、徹底的に心臓と血液、解糖力、筋持久を強靭に強化し、高出力を低体重で実現する肉体の強化を行なう。筋力の増加は高出力に繋がるが、登坂力が低下する為、付け過ぎると逆効果になる。クライマーほど筋力は捨てず、クロノマンほど付け過ぎない傾向があり、その体重はBIM値に収まっているケースがほとんどである。レースの特性からスプリントを行なう機会が少ない為、過剰にパワーを付けてスプリントを強化する必要性は無いが、あればアタック力になる為、パンチャーのように体重増加に頼らない加速力の強化は有効である。
◆代表的なトレーニング
⇒心肺パワーインターバル
⇒オーバー&アンダーインターバル
⇒登頂アタック
⇒高トルクインターバル
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パワー型
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両立型
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登坂型
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平地重視
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瞬発重視
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全能重視
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バランス重視 |
瞬発重視
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登坂重視
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クロノマン
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スプリンター
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オールラ
ウンダー
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ルーラー
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パンチャー
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クライマー
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ここに上げたタイプ以外に、悪路を得意とするライディングに優れる選手や、下り坂を高速で進む事を得意とするダウンヒーラーなどのタイプも存在する。
特に、オフロード系種目や技能技術を競うテクニック系種目では、パンチャー的な瞬発的な脚質と共に、その車体操縦能力が占める割合が圧倒的に高くなる。
また平地の方が幾分得意なオールラウンダーや、スプリンターだが山も多少は行けるなど、バランスの関係で中間的な位置づけに該当する事もあり、更に細かく特徴が分かれる。
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